6.4. パスワードハッシュ化¶
目次
6.4.1. Overview¶
org.springframework.security.crypto.password.PasswordEncoder
インタフェースが用意している。org.springframework.security.crypto.bcrypt.BCryptPasswordEncoder
org.springframework.security.crypto.password.StandardPasswordEncoder
PasswordEncoder
の仕組みとして、encode(String rawPassword)
メソッドでハッシュ化を行い、matches(String rawPassword, String encodedPassword)
メソッドで照合を行う。6.4.2. How to use¶
PasswordEncoderの実装クラス一覧
PasswordEncoderの実装クラス | 概要 |
---|---|
org.springframework.security.crypto.bcrypt.BCryptPasswordEncoder |
“bcrypt”アルゴリズムでハッシュ化を行うエンコーダ
|
org.springframework.security.crypto.password.StandardPasswordEncoder |
“SHA-256”アルゴリズム + 1024回のストレッチでハッシュ化を行うエンコーダ
|
org.springframework.security.crypto.password.NoOpPasswordEncoder |
ハッシュ化を行わないエンコーダ(テスト用)
|
ハッシュ化に関する要件がない場合は、BCryptPasswordEncoder
を使用することを推奨する。
ただし、BCryptPasswordEncoder
は対攻撃性を高めるために計算時間が多いため、
認証時の性能要件を満たせない場合はStandardPasswordEncoder
を検討すること。
既存のシステムとの関係上、ハッシュ化するアルゴリズムや、ソルトに対して制限がある場合については、
後述するorg.springframework.security.authentication.encoding.PasswordEncoder
インタフェースの実装クラスを使用すること。
詳細は、How to extendを参照されたい。
6.4.2.1. BCryptPasswordEncoder¶
BCryptPasswordEncoder
とは、PasswordEncoder
を実装した、パスワードのハッシュ化を提供しているクラスである。Note
Bcryptアルゴリズムは、汎用的なアルゴリズムより意図的に計算量を増やしている。そのため、汎用アルゴリズム(SHA、MD5など)より、 「オフライン総あたり攻撃」に強い特性を持っている。
6.4.2.1.1. BCryptPasswordEncoderの設定例¶
applicationContext.xml
<bean id="passwordEncoder" class="org.springframework.security.crypto.bcrypt.BCryptPasswordEncoder" /> <!-- (1) -->
項番 説明 (1)passwordEncoderのクラスにBCryptPasswordEncoder
を指定する。コンストラクタの引数に、ソルトのハッシュ化のラウンド数を指定できる。指定できる値は、4~31までである。指定値を大きくすることにより、強度は増すが、計算数が指数関数的に増大するので、性能面に注意すること。指定しない場合、「10」が設定される。Tip
How to extendで後述するが、DaoAuthenticationProvider は、
org.springframework.security.crypto.password.PasswordEncoder
の実装クラス、org.springframework.security.authentication.encoding.PasswordEncoder
の実装クラス両方を設定することができる。 そのため、従来のPasswordEncoder(authenticationパッケージ)から、新PasswordEncoderに移行する際も、ユーザのパスワード移行が完了後、 DaoAuthenticationProviderのpasswordEncoderを変更するだけで対応できる。Warning
DaoAuthenticationProvider
を認証プロバイダで設定している場合、UsernameNotFoundException
がスローされた場合、利用者にユーザが存在しないことを悟らせないために、UsernameNotFoundException
がスローされた後、意図的にパスワードをハッシュ化している。(サイドチャネル攻撃対策)上記のハッシュ化に用いる値を作成するために、アプリケーション起動時に、
encode
メソッドを内部で1回実行している。Warning
Linux環境でSecureRandomを使用している場合、処理の遅延や、タイムアウトが発生する場合がある。 本問題の原因は乱数生成に関わるものであり、以下のJava Bug Databaseに説明がある。
http://bugs.sun.com/bugdatabase/view_bug.do?bug_id=6202721
JDK 7のb20以降のバージョンでは、修正されている。
http://bugs.sun.com/bugdatabase/view_bug.do?bug_id=6521844
本問題が発生する場合、JVMの起動引数に以下を設定することで、回避することができる。
-Djava.security.egd=file:///dev/urandom
Javaクラス
@Inject PasswordEncoder passwordEncoder; // (1) public String register(Customer customer, String rawPassword) { // omitted // Password Hashing String password = passwordEncoder.encode(rawPassword); // (2) customer.setPassword(password); // omitted } public boolean matches(Customer customer, String rawPassword) { return passwordEncoder.matches(rawPassword, customer.getPassword()); // (3) }
項番 説明 (1)Bean定義した、PasswordEncoder
をインジェクションする。(2)パスワードをハッシュ化する例encodeメソッドの引数に平文のパスワードを指定することで、ハッシュ化されたパスワードが戻り値となる。(3)パスワードを照合する例matchesメソッドは、第1引数に平文のパスワード、第2引数にハッシュ化されたパスワードを指定することで、一致しているかチェックできるメソッドである。
6.4.2.2. StandardPasswordEncoder¶
StandardPasswordEncoder
はハッシュ化のアルゴリズムとして、SHA-256を利用し、1024回のストレッチを行う。StandardPasswordEncoder
のencode(String rawPassword)
メソッド、matches(String rawPassword, String encodedPassword)
メソッドの仕組みを説明する。encode(String rawPassword)メソッド
matches(String rawPassword, String encodedPassword)メソッド
6.4.2.2.1. StandardPasswordEncoderの設定例¶
applicationContext.xml
<bean id="passwordEncoder" class="org.springframework.security.crypto.password.StandardPasswordEncoder"> <!-- from properties file --> <constructor-arg value="${passoword.encoder.secret}"/> <!-- (1) --> </bean>
項番 説明 (1)ハッシュ化用の秘密鍵(secret)を指定する。指定した場合、ハッシュ化処理において、「内部で生成されるソルト」 + 「指定した秘密鍵」 +「パスワード」でハッシュ化される。秘密鍵(secret)を指定しない場合、レインボーテーブルを用いた攻撃方法に対する強度が下がるため、指定することを推奨する。秘密鍵(secret)について秘密鍵(secret)は、機密情報として扱うこと。そのため、Spring Securityの設定ファイルに直接指定せずプロパティファイルや、環境変数などから取得する。本例では、プロパティファイルから取得する例が有効になっている。また本番環境ではプロパティファイルの格納場所にも注意する。Tip
秘密鍵(secret)を環境変数から取得する場合
StandardPasswordEncoderのbean定義の、
<constructor-arg>
に以下の設定を行うことで取得できる。<bean id="passwordEncoder" class="org.springframework.security.crypto.password.StandardPasswordEncoder"> <!-- from environment variable --> <constructor-arg value="#{systemEnvironment['PASSWORD_ENCODER_SECRET']}" /> <!-- (1) --> </bean>
項番 説明 (1)環境変数:PASSWORD_ENCODER_SECRETから値を取得する。Javaクラス例はBCryptPasswordEncoder
と同様のため、BCryptPasswordEncoderの設定例を参照されたい。
6.4.2.3. NoOpPasswordEncoder¶
NoOpPasswordEncoder
は、指定した値をそのままの文字列で返却するエンコーダーである。6.4.3. How to extend¶
PasswordEncoder
を実装したクラスでは実現できない場合がある。PasswordEncoder
では要件を満たせないことが多い。- たとえば、既存のハッシュ方式が、以下のような場合が考えられる。
- アルゴリズムがSHA-512である。
- ストレッチ回数が1000回である。
- ソルトはアカウントテーブルのカラムに格納されており、
PasswordEncoder
の外から渡す必要がある。
org.springframework.security.crypto.password.PasswordEncoder
を実装したクラスではなく、org.springframework.security.authentication.encoding.PasswordEncoder
を実装したクラスの使用を推奨する。Warning
Spring Security 3.1.4以前では、
org.springframework.security.authentication.encoding.PasswordEncoder
を実装したクラスをハッシュ化に使用していたが、3.1.4以降ではDeprecatedとなっている。 そのため、Springが推奨しているパターンとは異なる。
6.4.3.1. ShaPasswordEncoderを使用した例¶
applicationContext.xml
<bean id ="passwordEncoder" class="org.springframework.security.authentication.encoding.ShaPasswordEncoder"> <!-- (1) --> <constructor-arg value="512" /> <!-- (2) --> <property name="iterations" value="1000" /> <!-- (3) --> </bean>
項番 説明 (1)passwordEncoderには、org.springframework.security.authentication.encoding.ShaPasswordEncoder
を指定する。passwordEncoderに指定する、クラスは使用するアルゴリズムに合わせて変更すること。(2)コンストラクタの引数に、SHAアルゴリズムの種類を設定する指定可能な値は、「1、256、384、512」である。省略した場合は、「1」が設定される。(3)ハッシュ化時のストレッチングの回数を指定する。省略した場合は、0回となる。spring-mvc.xml
<bean id="authenticationProvider" class="org.springframework.security.authentication.dao.DaoAuthenticationProvider"> <!-- omitted --> <property name="saltSource" ref="saltSource" /> <!-- (1) --> <property name="userDetailsService" ref="userDetailsService" /> <property name="passwordEncoder" ref="passwordEncoder" /> <!-- (2) --> </bean> <bean id="saltSource" class="org.springframework.security.authentication.dao.ReflectionSaltSource"> <!-- (3) --> <property name="userPropertyToUse" value="username" /> <!-- (4) --> </bean>
項番 説明 (1)ソルトを外部定義したい場合、org.springframework.security.authentication.dao.SaltSource
を実装したクラスのBeanIdを設定する。本例では、 ユーザ情報クラスに設定された値をリフレクションで取得する、org.springframework.security.authentication.dao.ReflectionSaltSource
を定義している。(2)passwordEncoderには、org.springframework.security.authentication.encoding.ShaPasswordEncoder
を指定する。passwordEncoderに指定する、クラスは使用するアルゴリズムに合わせて変更すること。(3)ソルトの作成方法を決めるorg.springframework.security.authentication.dao.SaltSource
を指定する。ここではUserDetails
オブジェクトのプロパティをリフレクションで取得するReflectionSaltSource
を使用する。(4)UserDetails
オブジェクトのusernamte
プロパティをsaltとして使用する。Javaクラス
@Inject PasswordEncoder passwordEncoder; public String register(Customer customer, String rawPassword, String userSalt) { // omitted String password = passwordEncoder.encodePassword(rawPassword, userSalt); // (1) customer.setPassword(password); // omitted } public boolean matches(Customer customer, String rawPassword, String userSalt) { return passwordEncoder.isPasswordValid(customer.getPassword(), rawPassword, userSalt); // (2) }
項番 説明 (1)パスワードをハッシュ化する場合、org.springframework.security.authentication.encoding.PasswordEncoder
を実装したクラスでは、encodePassword
メソッドの引数にパスワードと、ソルト文字列を指定する。(2)パスワードを照合する場合、isPasswordValid
メソッドを使用し、引数にハッシュ化されたパスワード、平文のパスワード、ソルト文字列を指定することで、ハッシュ化されたパスワードと平文のパスワードを比較する。
6.4.4. Appendix¶
Note
ストレッチとは
ハッシュ関数の計算を繰り返し行うことで、保管するパスワードに関する情報を繰り返し暗号化することである。 パスワードの総当たり攻撃への対策として、パスワード解析に必要な時間を延ばすために行う。 しかし、ストレッチはシステムの性能に影響を与えるので、システムの性能を考慮してストレッチ回数を決める必要がある。
Note
ソルトとは
暗号化する元となるデータに追加する文字列である。 ソルトをパスワードに付与することで、見かけ上、パスワード長を長くし、レインボークラックなどのパスワード解析を困難にするために利用する。 なお、複数のユーザに対して同一のソルトを利用していると、同一パスワードを設定しているユーザが存在した時に、 ハッシュ値から同一のパスワードである事が分かってしまう。 そのため、ソルトはユーザごとに異なる値(ランダム値等)を設定することを推奨する。